君の心にいるのは、誰ですか? 貴方の心にいるのは、誰ですか? 今一番叶えたい事は、何ですか? 想いだけではどうにもならないことも、あるのだと。 □■□ ばたん。 自分の部屋へ駆け込むと、は勢いよくドアを閉めた。 「―――」 はあはあと肩で大きく息をする。 喉が熱い。 頭が割れそう。 今のは、何…? 何だったの…? は、部屋のベッドへと近付くと――すとんとそのまま床に座り込んだ。 「ぁ、う、……ううううっ…」 こらえきれない。 歯を食いしばっても、声が漏れてくる。 涙が、止まらない。 どうして。 どうして。 聞きたくなかった。 聞きたくなんか、なかった。 わたし、わたし。 『俺はあいつの事など………何とも思っちゃいないっ!』 だめだ。 あの声が、あの言葉が、耳について離れない。 何度も何度も頭の中で反芻する。 そのたびに、何かが壊れていく気がした。 「…や、だぁ…!」 だめ。もう、だめ。 頭を両手で抱え込む。耳を塞ぐ。 何かから身を守るように。 何か? ちがう。 『俺はあいつの事など、』 「やだっ…」 やめて。やめて。 どんどん真っ暗になっていく。 絶望が身体を侵食していく。 心臓が痛い。 痛くて痛くて、捩れて悲鳴を上げている。 苦しい。 凄く凄く、苦しい。 まるでばらばらに身体を引き裂かれたみたいだ。 ああ、おねがい。 声にならない声で、叫んだ。 消えてしまいたい。 「―――っ! !」 リゼルグの切羽詰った声が、ドアの向こうから聞こえた。 「…、入るよ」 ドアが開いてリゼルグが入ってくる。 相当急いで来たらしく、肩を大きく上下させていた。 「、」 リゼルグの再度の呼びかけに。 ――――はようやく顔を上げた。 「………」 彼の眉がぎゅっと寄せられる。 凄く凄く、痛そうな顔。 ああ、彼は一体どこが痛いのだろう。 何が痛むのだろう。 「…ごめん」 そう彼は呟くと。 に近付き、そのままそっと抱きしめた。 あったかい。 白いシャツが見える。 リゼルグの、匂い。 「ごめん。ごめん、…! 僕が…僕が、」 リゼルグの声が聞こえる。 涙で、シャツが汚れてしまう… はぼんやりと思った。 酷くだるかった。 手足が、重い。 もう何もかもが億劫で。 …息を、することすらも。 「……」 リゼルグが少し離れて、顔を覗き込んでくる。 視線が、少しだけ、痛い。 一つ息を吐くと―――リゼルグは、何かを決心したように口を開いた。 「――好きだよ」 どくん 「君が傷つくのは、もう嫌だ。君が…蓮くんの為に泣くのを見るのは、もう嫌だ」 どくん ―――――リゼルグの顔が、いつの間にか、ちかい。 「…僕を見て。君を泣かせたりなんか、しない。君を傷つけたりなんか……絶対に、しない」 あ…、…… 『いつかは、決めなくちゃならない』 ―――だれが すき なの ? 「っ…」 反応の無いに、リゼルグの顔がもどかしげに歪む。 そして。 『いつかは、決めなくちゃならない』 『お前さ……そいつらのこと、好きなんだな』 『きっと、だいじょうぶ』 『―――来い』 伸ばされた、手。 真っ直ぐな太陽の色。 「…やッ……」 「…?」 怖くなった。 何が怖いのかは良くわからない。 だけど。 リゼルグの身体を押し返したことは、事実で。 拒んだのは…事実、で。 彼の瞳が驚愕に見開かれ、そして、見る見るうちに悲しげに歪んでいく。 ああ、また。 誰かを傷つけてしまう。 「っごめんな、さい…ごめんなさいッ…ごめんなさい、ごめんなさい」 終いには、もう何が何だかわからなくなって。 ただひたすら謝った。 ぽたぽたと零れていく涙が、服に染みを広げていく。 わたしはどうしたいの。 わたしはなにがしたいの。 わたしがのぞむのは、―――何? 「…ごめ、なさ…ごめんなさい……ご、め、ん…なさ、いっ…」 「………」 顔が、見れなかった。 彼もただ言葉を失う。 蹲るに、リゼルグは思わず手を伸ばすも―――すぐにぐっと引っ込めて。 …彼は静かに立ち上がった。 そして。 「……――……」 ―――そのまま、部屋を出て行ってしまった。 扉が静かに閉まる音。 立ち去る、少しだけ早い足音。 「っ…」 いっそうの嗚咽が大きくなった。 もう、わからない。 わからない。 脳がすべてを遮断しようとする。 ぐちゃぐちゃに掻き乱されたまま。 世界が闇に沈んでしまった。 ごうごうと耳の奥で何かが鳴っている。 喉が、熱いのだけはそのままに。 それでも、一つだけはっきりと脳裏に刻まれた事実がある。 大切な人を、二人とも失ってしまった。 |